2015年5月11日月曜日

くみたてLab、ハイブリッドIEM 『KL-REF』 を発売します!

惜しまれつつディスコンとなった問屋DD-KAI。その流れを引き継いだ新作の
ハイブリッドIEMが完成しました。



KL-REF
・3BA-2DD Hybrid IEM

中高域を担当する3つのBAドライバと、低域を担当する2つのダイナミックドライバを搭載しています。
低域をコントロールするボリュームもオプションとして用意しました。


 また、ダイナミックドライバを水平に対向させて配置し、そのためのハウジングを3Dプリンタで出力しています。ハウジングはTRIOで筐体設計をしてもらった「Mr.X」にお願いしました。

モデル名『KL-REF』の由来ですが、REFはReferenceの略です。これはくみたてLabが音作りをする時に、あるいは全モデルのなかでの基準を設けるためのものとして、「Reference」と定義しました。
このIEMを基準に、「より低域の強いモデルがKL-サンカ」など、お客様に製品を紹介する際の説明をしていきたいと思います。

また、低域の量感は特に聴く人によって好みが別れるところです。
製品を使っていく上で、ご自身の「Reference」を設定できるように、低域の調節機構を搭載しました。

音の傾向は、低域を絞った状態では高域の繊細な質感が目立つ音になっています。低域を最大にした状態では、ダイナミックドライバのもつ量感ある低域が主張しながらも、全体としては音場が広く中~高域の質感を失わないようなバランスに設定しています。「低域が強い=ハイブリッド」という図式には収まらない仕様に今回もなっております。

低域調整のオプションを排したモデルでは、低域、中域、高域が適切にモニターできるバランスに整えています。

価格は、低域調整オプションなしが¥109800(税込). 低域調整オプション付が¥125000(税込)です。
5月16日から受注開始です。(web直販・みなと補聴器様店頭のみ)

試聴機の展示を、5/16、5/17のヘッドホン祭にて行いますので、ぜひ試聴にお越しください!




2015年5月10日日曜日

『SE530-KAI』、『TF10-KAI』・『問屋DD-KAI』セルフレビュー ~私のIEM体験の原点。~

今年もやってきました春のヘッドホン祭2015.
くみたてLabも参加しますよ!今年もよろしくお願いします。

さて、「一番フラットなのはどの機種?」「低域が強いのはどれ?」「モニタ寄りの音ってあるの?」
と弊社の製品についてお問い合わせをいただく機会が増えてきました。
そこで、ヘッドホン祭当日まで、くみたてLabの二年間で製作を続けてきた機種を振り返る、
セルフレビューを上げて行きたいと思います!


第4弾は『SE530-KAI』・『TF10-KAI』そして『問屋DD-KAI』です。

【お客様によるレビューはこちらです。】
『SE530-KAI No.1』『SE530-KAI No.2』『SE530-KAI No.3』『SE530-KAI No.4l
『TF10-KAI No.1』『TF10-KAI No.2』『TF10-KAI No.3』
『問屋-KAI No.1』『問屋DD-KAI No.2』『問屋DD-KAI No.3』 『問屋DD-KAI No.4』


くみたてLabでは、オリジナルのIEMに加え、既存のIEMからもカスタムIEMを作れます。
それが「チューニングサービス」で、ShureのSE530とUltimate EarsのTF10がチューニング可能です。また、かつては上海問屋で販売していた「DN-80499」を使った「問屋DD-KAI」なるハイブリッド機もありました。

現在でも続いているチューニングサービスはTF10-KAIとSE530-KAIですが、なぜこの2つなのかというと、私がIEMに興味を持つことになったきっかけがこの2機種だったからです。思い入れのあるこの2機種を、「こうだったらいいのになぁ」とあれこれ考えてチューニングしました。

私のIEM遍歴ですが、2008年に¥32800でTF10を買ったのがその始まりだったきがします。、「こんな凄い音を出すイヤホンがあるのか!」「高級なイヤホンの事をIEMというのか(違います)」と新しい世界が開けた事を今でも覚えています。程なくしてリケーブルというものを知り、オーグラインでケーブルをつくったのがDIY道への入り口ですね。半田ごてをはじめて握り、生意気にも銀入り半田をいきなり使ったものだから半田付けがうまくいかないこと・・・

ケーブル周りでいろいろいじっていたら、やがてカスタムIEMなる存在をしり、最終的にはUnique Melodyでリシェルに出すことになりました。私のカスタムIEMの入り口もこの機種だったのです。

さて、そんなことはさておき、 まず僕の原点といってもいいTF10を使った
TF10-KAIからレビューしましょう。


TF10-KAI
・4Driver3Way

TF10の特徴といったら、なんといっても弾むような低域とキラキラした質感の高域にあるでしょう。
また、音場も独特で、IEMとしてはびっくりの広さを持ちます。
「低域が強すぎてボワボワだよ」といった批判はありましたが、それを含めてTF10なのです。
コレだけ色がはっきりした製品ってないんじゃないかなとも思います。

ところがこのTF10、音の好みという以外に、ちょっとした問題がありました。
ネットワーク部に20Ωの抵抗が挟まっており、出力インピーダンスの高い再生機器を使うとかなり音が変わってきちゃうのです。今でこそポータブルプレイヤーは出力インピーダンスがほぼ0~数Ωの物が増えましたが、一昔前は数十Ωあるものもあり、これがネットワーク部の抵抗と合わさるとかなり大きな値の抵抗がBAドライバに直結されてることになります。

実はTF10内部のこの抵抗、コンデンサと合わせてローパスフィルタを構成しています。
ウーファーにローパスを当てて、ハイカットをしているのですが、抵抗が大きな値になると
減衰が始まる帯域がより低域よりにシフトするので、出音がガラッと変わる可能性があります。

TF10-KAIでは、まずこの問題を解決しようと設計を始めました。「KL-アカラ」の開発で
物理的なローパスフィルタの設計に成功していたので、抵抗とコンデンサによるローパスの
変わりに物理ローパスを使うことで、ネットワーク部から抵抗を取り除くことに成功しました。
これで、再生機器のインピーダンスを気にせずに使えるということです。

あとは、中域のへっこみをドライバを追加することで多少持ち上げています。これはTF10の独特な音場表現を薄めるので、好みによりますが・・・

とにかく、私のいろんな思い出が詰まったチューニングモデルが、このTF10-KAIです。

さて、話は少し戻ってTF10のリシェル・カスタムIEMを手に入れた頃。しばらくTF10で満足していたのですが、ふとした拍子にSE530という機種の存在をしりました。低域強めのTF10とは違い、どの帯域もバランスよく鳴らしつつ、程よく低域のスパイスが効いたこの機種に、すぐさま心を奪われてしまいました。イヤホンスパイラルの始まりですね。


SE530-KAI 
・6Driver2Way
・SE535、SE535-LTDからも製作可能。

気づいたらこちらも3台くらい手に入れて、こちらもUnique Melody でリシェルしてました。とにかく聴き疲れしなく、どんなジャンルもバランスよく鳴らすんですよね。

ところが、だんだん「やっぱり高域と低域がもっと欲しいな・・・」と思うようになってきました。リシェルされたSE530を観察して、「カスタムIEMってどうなってるんだろうなぁ」と考えてました。使っているうちに、2ピンがソケット内で折れる事故が発生し、そこからカスタムIEMの自作がスタートするわけです・・・。

どうにも話がそれて申し訳ありません(笑、そんなわけで、このSE530-KAIは元のSE530に
ツイーターとウーファーを足して、高域と低域を持ち上げることをチューニングの主眼にしています。また、もともとSE530についているツイーターを取り除き、歪の少ないBAドライバに交換することで、高域の質感の向上を狙っています。

設計に半年ほどかかりましたが、出音を聞いて満足しました。メリハリがきいて、聴いていて楽しい!しかしあれ、これってもしかしてTF10の音に近づいている・・・?
SE530をずっと聞いているうちに、無意識にTF10の音を欲していたのかもしれません(笑

またまた話は戻って、私が自作IEMを始めてしばらくしたころ。「1000円くらいのイヤホンがすごいいい音がする」という真偽不明の情報が出回ってきました。それが、上海問屋で販売されてた「DN-80499」こと「問屋DD」でした。 


問屋DD-KAI
・3BA+2DD Hybrid

問屋DDを初めて聴いたときは驚きましたね。「1000円そこそこのイヤホンでこんなにいい音がするのか・・・」と。同時に「1000円なら気兼ねなくパーツ取りできる!」と早速DIYの材料になりました(笑

問屋DD、低域の量感はすばらしいのですが、中高域の主張はそれなりで、特に8kHz以降は余り得意じゃないようです。ならば、ここの帯域をBAに担当させて、ハイブリッドとしたらどうか、と思いつきました。

ハイブリットのIEMとしてUlitamate Earsの 5EBという伝説?の機種があり、とにかく強烈な低域とその背後で遠慮がちになる中高域というその音が、ハイブリッドIEMの音のイメージを作りだしている状況が当時はありました。 ダイナミックドライバでしか出せない低域は魅力的なんですが、
いかんせん1kHz~2kHzあたりまでその音が主張してくると、全体的にマスクのかかった音像になってしまうと常々考えていました。  ShureのSE115とE4cで作った自作ハイブリッドIEMがあったのですが、そのハイブリッドもそんな感じの音でした。
  
そんなハイブリッドのイメージを変えるべく、ダイナミックはあくまでサブウーファー的に300Hzくらいまで鳴らせばいいかなと設計したのが問屋DD-KAIです。
音導チューブを取り付ける樹脂パーツにダイナミックドライバを貼り付け、前面の容積をほぼ0にすることで300Hz以下の帯域を綺麗に取り出せました。
音はダイナミックらしい量感のある低域を持ったドンシャリ。ただ、環境によって聴こえ方が違うのがこの問屋DDのミソで、室内などの静かな環境では鼓膜を揺さぶるようなノリのいい低域主体の音を、屋外などの騒がしい環境では、全帯域でバランスのよい音になるように狙っています。
展示会での評判は上々で、「面白いIEMだ」「すごく自然な聴こえをする」といった評価を多くいただきました。
2013年の暮れから、ひっそりと販売を開始しましたが・・・

  

この問屋DD-KAI、マニアックな人気を生み一時は1番の売れ筋になりました。去年の11月から12月はほとんど問屋DDを作ってたんじゃないかな・・・(苦笑
ただ、原材料となるDN-80499のマッチングが突然悪くなる時期があり、部品としての質が確保できなくなってきたので、泣く泣くディスコンに。

 

やはり、ダイナミックドライバが二発も詰まっているという遊び心をくすぐる構成、色物と思いきやまともな出音。この摩訶不思議なIEMですが、復活を望む声も多数いただきました。





 よし、ではこういう形で復活させましょう!


次回は、この新作のセルフレビューをします。こちらもよろしくお願いします!
 

 

2015年5月8日金曜日

『KL-カノン』、『KL-カノン・スイッチオプション』・セルフレビュー ~スイッチ・ギミックによる全く違う3種の音~

今年もやってきました春のヘッドホン祭2015.
くみたてLabも参加しますよ!今年もよろしくお願いします。

さて、「一番フラットなのはどの機種?」「低域が強いのはどれ?」「モニタ寄りの音ってあるの?」
と弊社の製品についてお問い合わせをいただく機会が増えてきました。
そこで、ヘッドホン祭当日まで、くみたてLabの二年間で製作を続けてきた機種を振り返る、
セルフレビューを上げて行きたいと思います!


第3弾は『KL-カノン』・『KL-カノン・スイッチオプション』です。

【お客様によるレビューはこちらです。】
『KL-カノン・スイッチオプション No1』『KL-カノン・スイッチオプション No.2』『KL-カノン・スイッチオプション No.3』
『KL-カノン・スイッチオプション No.4』『KL-カノン・スイッチオプション No.5』 
『KL-カノン No.1』『KL-カノン No.2』『KL-カノン No.3』  


『KL-カノン』は、くみたてLabが二人体制になってからその設計がスタートしました。
うまし君こと山崎君に、最初の仕事としてやってもらったのがカノンの設計でした。
カノンの下敷きになったのは、彼がまだ学生だった頃にポタ研で展示していた試作機です。


試作機ではむき出しになった抵抗を変えることで低域の量感を変えていました。
面白いアイディアだったので、「音を変えられるギミックを搭載したら?」という話になりました。


当初は「Mage-K」のように、スイッチでウーファーのBAドライバを切り替えるギミックを考えていたようです。これはこれで面白かったんですが、さらに進んで「スイッチによってドライバ数と音を切り替えられるギミックはどう?」と、まだ当時誰もやっていなかったことを実現する方向で開発の方向がまとまりました。


KL-カノン
・4Driver 3Way
・インピーダンス 9Ω

スイッチはオプションとして用意することにして、ひとまず4ドライバのカノンを2014年のポタ研・冬で発表。スイッチによるドライバ数の切り替えを思いついたは良いんですが、スイッチ部品やそれを保持するパーツを作るのにも苦労しました。結局、スイッチオプションはTRIOの際に力を借りた「Mr.X」にそのパーツ設計をお願いして実現しました。設計開始からちょうど1年後のことでした。


 KL-カノン・スイッチオプション
・6Driver4Way×2、4Driver 3Way
・スイッチによる、4ドライバ、6ドライバ(フラット)、6ドライバ(低域増大)の切り替えが可能

4ドライバのカノンは、中域の存在感が特徴的でした。低域の量感はそれなりにあり、不足気味というほどではありません。 音場も横に広く、狭めに設計することが多い自分には新鮮でした。初めてその音を聴いたとき、「お、こんな感じの音作りをするのか」と感動を覚えた記憶があります。カスタムIEMとしては珍しい音作りだったので、ユニークな製品になるだろうなと期待しました。

ところが、このカノンもまた、不遇の時代を迎えるんですよね(笑)
ヘッドホン祭2014春に参加以降、 サンカやアカラ2014が少しずつ注文が入るようになりましたが、
カノンは余り注文が入りませんでした。設計者としてはさぞかしつらい時期だったでしょう。
しかし、そこで投げ出すことなく、なぜカノンの音が評価されないのかと考えることを彼は続けました。
この根性が、後述するカノンの人気爆発につながったのではないでしょうか。

まず、カノンの高域の繊細な質感は、カスタムIEM版では音導管を掘り返すことで実現しています。
サンカの金属音導管と同じような発想なのですが、カノンの場合は2つのドライバについて掘り返す必要があるので、その作業が複雑です。

試聴機では、この掘り返しが再現されていなかったので、高域が曇った感じに聴こえていたようです。つまり、カノンの音が正しく伝わっていなかった可能性があるのです。

次に、スイッチオプションを搭載したバージョンを後日発表するとしていたので、お客様もその登場を待っていたのではないでしょうか。スイッチオプションの試聴機がきちんと用意できたのは2014年秋のヘッドホン祭で、カノン・スイッチオプションの発売はその2ヶ月後のポタフェス2014冬になりました。





 すると、ポタフェスでブースにお越しいただいた方々の評価は上々。その後、爆発的な受注につながりました。設計から1年、苦労と苦悩が報われた瞬間だったでしょう。

スイッチオプションでは、ノーマルのカノン4ドライバの状態と、低域をブーストした6ドライバの状態、低域を減らし、よりフラット傾向に近づけた6ドライバの状態があります。同じ6ドライバでも、低域の量感の調整ができるのは、ドライバの駆動に秘密があります。
低域をブーストした状態は、いわゆるドンシャリの傾向が強くなり、ノリのよい音を鳴らしてくれます。逆に低域を減らしたフラットの状態では、曲こそ選ぶものの、クラシック等の繊細な高域表現や空間表現が求められるジャンルでは、とてもマッチします。

IEMを使うお客様自信が、自分の好みやその日の気分に合わせて音を調節することが出来るギミック。音作り以外の楽しさ、製品の価値が詰まったのが、「KL-カノン・スイッチオプション」といえましょう。

カノンのレビューは以上です。次回は、チューニングサービスの二機種、「TF10-KAI」と「SE530-KAI」のレビューです。こちらもよろしくお願いいたします。






2015年5月6日水曜日

『KL-サンカ』・セルフレビュー ~最高の3ドライバ機をめざして。~

今年もやってきました春のヘッドホン祭2015.
くみたてLabも参加しますよ!今年もよろしくお願いします。

さて、「一番フラットなのはどの機種?」「低域が強いのはどれ?」「モニタ寄りの音ってあるの?」
と弊社の製品についてお問い合わせをいただく機会が増えてきました。
そこで、ヘッドホン祭当日まで、くみたてLabの二年間で製作を続けてきた機種を振り返る、
セルフレビューを上げて行きたいと思います!


第2弾は『KL-サンカ』です。

【お客様によるレビューはこちらです。】
KL-サンカ No.1KL-サンカ No.2KL-サンカ No.3KL-サンカ No.4
KL-サンカ No.5KL-サンカ No.6KL-サンカ No.7KL-サンカ No.8
KL-サンカ No.9KL-サンカ No.10KL-サンカ No.11
KL-サンカ No.12KL-サンカ No.13 


「KL-サンカ」は、事業開始発表後に初めて参加したイベントであるポタ研2013夏で展示しました。展示企画として、「CI-EDコンテスト」という全く同じドライバを使って3ドライバのIEMを作るというコンペを開催したので、それに出す作品として設計を進めました。
 
 
コンペの名前通り、サンカには「ED29689」というBAドライバをツイーターとして1機、「CI22955」というBAドライバをウーファーに2機搭載しています。
合計3ドライバなわけですが、これはIEMの基本的な構成といえるでしょう。各メーカー、3ドライバ機のモデルがラインナップの中に1つはありますが、基本的な構成の中にどのメーカーも自分たちの音作りの色を出そうとしているように思います。


KL-サンカ
・3Driver2Way
・インピーダンス:9Ω

ただ、どうしても構成が似通ってくるので、実際のところ差別化はかなり難しかったりします。
まずBAドライバの選定で音の方向性が大きく決まり、後はネットワークと音響抵抗の選定で微調整をしていく、というところでしょうか。

サンカでは、他のメーカーの3ドライバ機と差別化すべく、他が余りやっていない音響設計によって独自の音を出そうと工夫しています。
具体的には、ウーファーのBAドライバに接続した、L字型の音導管と、ツイーター側のBAドライバの音導管に接続した金属の音導管です。



サンカをよく観察すると、ウーファー側の音導管がL字に曲がっているのが分かると思います。これは、音導管を曲げることでの高域の減衰を狙い、ちょっとしたローパスフィルタとして作用します。CIの持つ高域のピークを削ることで、ツイーターのBAが出す音に影響の無いようにしています。

次に、ツイーターの音導管についた金属管。これはツイーターBA単体では出しにくい10kHz以上にピークを作り出し、高域にキラキラとした質感を与えることを目的としています。



また、ネットワーク部には高精度のコンデンサや抵抗を使い、細部にもこだわって設計しています。

音の傾向としては、アカラよりも低域と高域のメリハリを強くし、聴いていて楽しいことを主眼においています。CI独特の、量感のある低域を存分に生かしながら、高域もそれに負けないよう目立たせる工夫を、音響抵抗の選定や音導管の工夫で実現しています。

基本的な構成だからこそ、何か一工夫して独自の色を出す。「KL-カノン」でのスイッチオプション、「TRIO」での低域コントロールなど、その後のギミックにつながるような発想だったのかなぁ、と設計から2年後の今なんとなく思います(笑)

とにかく「3ドライバとして最高のものを作ろう」と設計し、自信をもってこの「KL-サンカ」と一緒に事業をスタートさせました。

ところが、これが最初全然売れなかったんですよね(苦笑)
それも当たり前の話で、突然出てきたメーカーが「最高の3ドライバだ!」といったところで眉唾ものだし、そもそも試聴がしにくいカスタムIEMですから、皆さんから注目をいただきながらも様子見、という状況が長らく続きました。10月の事業開始から半年で3つくらいしか世に出なかったんじゃないかな・・・

そんな状況を一変させたのが、去年の「ヘッドホン祭 2014春」でした。くみたてLabとして始めて参加したヘッドホン祭だったんですが、カスタムIEM版と特性がほとんど変わらない試聴機が完成したので、そこで改めて来場された皆さんに音を聴いてもらえました。結果は好評で、ブースで直接感想や応援の声をかけていただけたのはとても嬉しかったです。




ヘッドホン祭が終了してから、サンカのご注文をいただくようになり、事業も徐々に上向きになってきました。くみたてLabの最序盤は、このサンカによって支えられてきました。ありがとう、サンカ。

さて、レビューの内容がそれてきたのでこの辺で締めくくります(笑)。お付き合いありがとうございました。
次回は、 二人体制になってからの初めてのIEM、うましくんこと山崎君が初めて設計した「KL-カノン」、「KL-カノン・スイッチオプション」です。こちらもよろしくお願いします。







『KL-アカラ』・セルフレビュー ~同じ構成で3種の音作り~

今年もやってきました春のヘッドホン祭2015.
くみたてLabも参加しますよ!今年もよろしくお願いします。

さて、「一番フラットなのはどの機種?」「低域が強いのはどれ?」「モニタ寄りの音ってあるの?」
と弊社の製品についてお問い合わせをいただく機会が増えてきました。
そこで、ヘッドホン祭当日まで、くみたてLabの二年間で製作を続けてきた機種を振り返る、
セルフレビューを上げて行きたいと思います!


第一弾は『KL-アカラ Listening』、『KL-アカラ Stage』、『KL-アカラ2014』の3機種です。

【お客様によるレビューはこちらです。】
KL-アカラStage No.1KL-アカラStage No.2
KL-アカラ2014 No.1、 KL-アカラ2014 No.2KL-アカラ2014 No.3
KL-アカラ2014 No.4KL-アカラ2014 No.5KL-アカラ2014 No.6
KL-アカラ2014 No.7KL-アカラ2014 No.8


KL-アカラ Listening
KL-アカラListening

・3Driver 2Way
・インピーダンス 14Ω
KL-アカラ Stage


KL-アカラStage

・3Driver 2Way
・インピーダンス 12Ω

KL-アカラ2014
KL-アカラ2014

・4Driver 3Way
・インピーダンス 5Ω



じつは、くみたてLabが一番最初に設計したIEMがアカラで、事業開始の発表前からオリジナルIEMとして設計してました。2年前のヘッドホン祭に視聴機を持っていってますね・・・


くみたてLabは、このアカラシリーズから始まったといえるでしょう。

アカラシリーズのコンセプトを一言で言うと、『フルレンジのBAに、ウーファーやツイーター用のBAを足す』ということになります。シングルBA機に採用されることの多い『ED29689』というBAドライバに、StageとListeningではウーファーを、2014にはウーファーとツイーターを足しています。

ウーファーには当時あまりなかった物理的なローパス機構をかぶせて、フルレンジで鳴らしているBAドライバの帯域に被らない様に工夫しています。画像は試作段階のものですが、現在はローパスを利かせつつも音圧を損なわないような設計になっています。



StageとListeningは、事業開始発表後最初のイベントだったポタ研2013夏でメイン展示しました。
この2機種は構成が全く同じで、フルレンジの『ED29689』に、物理ローパスでハイカットした『38AM007』というウーファーを使っています。
違いはネットワーク回路のみで、フルレンジとウーファーのインピーダンスを調整しています。ネットワーク回路だけで、二つの異なった音が出せるのだということをアピールしたいという思いもあります。

KL-アカラ Listening

「KL-アカラ Listening」では、フルレンジには「BAドライバのハイ上がり」で実験した現象を取り入れ、通常より高域の音圧が上がるように調節しています。
ウーファーにも、量感のある低域をだすBAドライバを配することで、フラット~ややドンシャリな音質を目指しています。個人的には、このバランスが1番聴く音楽のジャンルを選ばないと思うので、万能選手型のIEMに仕上がっていると言えるでしょう。


また、ネットワークによりIEM全体の音圧を下げて、アンプなどを使用する場合にもギャングエラーに悩まされること無く音量が取れるようにしています。

BAドライバ数の多いカスタムIEMでは全体のインピーダンスがどうしても低くなってしまうので、アンプを使うと小ボリュームでも大音量で聴けちゃいます。ポータブルアンプで使われているボリュームには、小ボリューム時に「ギャングエラー」という左右のボリュームが揃わない現象がままあります(当時のものですけどね。今はだいぶ精度が高くなってるみたいです)。

「KL-アカラ Listening」は通常のカスタムIEMでは大きすぎるボリュームポジションでも、適切な音圧で聞けるわけです。「Listening」には、音楽鑑賞そのものを楽しむ意味と、ポータブルアンプやDACなどを組み合わせて自分の構成で音楽を聴く楽しさ、その両方をこめています。


KL-アカラ Stage

「KL-アカラ Stage」は、フルレンジのインピーダンスのみを上げ、ウーファーにより多くの出力がなされるように調節しています。

ウーファー用BAの持つ弾むような低域を存分に生かし、街中や駅のホーム、それこそステージ上のようなラウドな環境でも低域がきちんと聞き取れるように調節しています。また、全体のインピーダンスも低いため音量もとりやすく、プレイヤー直挿しでも十分な音量が取れます。全モデルの中で一番低域の強いモデルがこの「KL-アカラ Stage」といえるでしょう。

騒がしい環境でも十分な低域を楽しめるよう、またステージパフォーマーにも使ってもらえたらなぁというふわっとした思い、そういったものが「Stage」にはこめられています。

KL-アカラ2014

最後に「KL-アカラ2014」。2014年に入りはじめて参加したポタ研冬で初展示。2014とは、単純に年号のことなんです(笑

「KL-アカラ2014」は、先の「KL-アカラ Listening」、「KL-アカラ Stage」の構成にツイーターを追加し、4Driver-3Wayに再設計したことです。高域の音圧を更に持ち上げ、低域、中域、高域すべての帯域で十分な音圧が得られるようにしています。

高域の質感を左右する帯域にツイーターを追加したことで、ListeningやStageには無いキラキラとした質感を足すとともに、フラットな出音になるように調整しています。音場はタイトにまとめ、違和感の無い聴こえにしています。


以上が各「KL-アカラ」シリーズのちょっとしたセルフレビューです。あくまで私の感想なので、人によっては異なる印象を持つこともあるかと思います。

音というのは、個人の趣向・感覚に大きく左右され何が正解かという答えが無いものです。
その答えの無い問いに正解を与えるのは、IEMを手に取ったお客様だと私は考えるのです。
『アカラ』というコンセプトの中で3種類の音を用意したのは、同じ方向に進みながら微妙に異なる提案をしたいという思いからでした。
「KL-アカラ」シリーズをはじめ、 くみたてLabの製品が答えを見つける手助けになれば、製作者としてとても嬉しいです。

セルフレビュー第一弾はこの辺で終わりにしようと思います。
次回は、ロングセラーの「KL-サンカ」のレビューをしたいと思います。





2015年5月3日日曜日

『イヤホンばらして平気なの?』完結編。



ようやくJH13proのほうを何とかしたので、久しぶりの雑記帳的ネタはこいつで行きましょう。めちゃくちゃ長いですよ!


『イヤホンばらしてへいきなの?』とTF10くんの写真で締めくくった前回の記事。こいつの写真で終わらせたのは意味があったのです。というのも、
古いJH13proの低域用BAドライバは、TF10のものと同じなのではないか!
という仮説が僕の中であったのですよ・・・

ジャンクボックスから出てきたこいつを使って、JH13proを復活させてみたいと思います!IEMが集いし邪教の館へようこそ・・・

(※ちなみに、現行のJH13proの低域BAドライバは別のものになってますので注意!以下の記事は、freqphaseが採用される前のJH13proのみ当てはまります。)


おさらいですが、届いた時点のJH13pro. おそらく右のウーファーが死んでいます。


えい、っとフェイスプレートからぺきぺき割ります。緑の絶縁塗料が塗ってあるのが中低域を担当するDTEC、下のドライバが死んでると思われるJHA-XBとある特注Sonion社製ドライバ。DTECのほうはJH-3Mと刻印されており、こちらも特注のKnowles社製のドライバ になります。
BAドライバを製造している会社で有名なSonionとKnowlesですが、この2社の特注ドライバをふんだんに搭載してます。ちなみに、高域担当のDFK?も特注です。



JHA-XBの半田タップの間をよく見ると、小さな穴が開いているのがお分かりでしょうか?

これは"Tuned vent"といって、低域の量感を増やすためにBAの筐体に空けられたベント(空気孔)です。UE-XXXにも、おなじくあいています。

ただし、外見が同じでも、インピーダンスや特性が違ったりして必ずしも同じドライバとはいえません。Sonionのラインナップに「33AJ008/i」という同じような外見のドライバがありますが、こちらはJHA-XBともUE-XXXとも違います。もしや?と思ったそこのあなた、残念でした。

ではなぜJHA-XBとUE-XXXがおなじドライバと考えたのか?それは外見の特徴がそろっているのもそうですが、JH Audioを創設したジェリー氏が、Ultimate Ears在籍時に開発してたのがTF10だったからです。同じ人が作ったIEMならば、同じような部品を使って音作りをするのではないか?


緑がUE-XXX、黄色が正常と思われるJHA-XB、赤が故障品。
JHA-XBのスパウトにはフィルタが詰まっており、これが高域を減衰する役割を担っているので(つまりローパスフィルタ)、現状では全く別物に見えますが、緑と黄色のグラフの20~50Hz付近を見てください。いい感じにそろってませんか?
ここからも、同一のBAではないかと推測されます。

ところで、故障品と思われるBAからも音が出力されてますね。


故障した右chをばらしたときに、シェル側に黄色い配線材がとりのこされました。もしかして内部で配線が途切れていてなっていなかったのかもと思い、念のために計測してみましたが、出音があるということは故障していないのか?


こちらが故障品のスパウト部のアップ。黄色い綿みたいなのが詰まっているのがお分かりでしょうか?これがハイカットの役割を果たすフィルタです。これを取り出して、UE-XXXのほうのスパウトに詰めてみます。


黄色が正常のJHA-XB、赤が故障品、緑がUE-XXX.

なんとUE-XXXのf特が壊れてると思われるJHA-XBの方にそろいましたw

なんということだ・・・なんということだ・・・

これは、スパウトに詰まったフィルタが悪さをしているのではないか?
いったんUE-XXXは置いといて、再度JHA-XBのほうに
少しずつフィルタの欠片をつめて調節していきます。


赤が正常のJHA-XB、緑が故障品と思われていた方。

おおおお、揃いました!
なんだ、BAドライバ自体は壊れておらず、スパウトにつめたフィルタの劣化と配線の故障が原因だったのか、と一安心。さて、音導チューブの処理をして、シェルに詰めれば見事に復活です!







念のために、こちらも特注BAドライバであるDTEC(Knowles社製)のf特も測っておきましょう。データ採りもしたいですしね。









赤が左chのJH3-M. 緑が右のJH3-M.

おまえもこわれてるんかい!!!!!!









あああああああ、どうしましょう。この時点でだいぶ気力が萎えました。
先ほどからDTECと紹介してきましたこのドライバ、Knowles社製ではあるんですが、
先述したとおりラベルが「JH-3」となっていてこちらも特注です。
特注のドライバが壊れている以上、もうどうしようもないのか・・・



スッ・・・

ジャララ・・・

ジャーン!!!!


まだだ、まだ終わらんよ!!!!

中国から取り寄せた出所不明のJH3-Mを使って、直していきます。
ここまできたらなりふり構ってられんよ・・・
なんせ出所不明なのでマッチングを検査します。


赤が左のJH-3M、緑が出所不明のJH-3M.黄色が故障品です。なんとかよさげな個体が見つかったのでこいつを採用。

最近お気に入りの薄いライトパープルのシェルに入れました。

緑が左ch、黄色が修理した右。赤はお客様からお借りしたJH13pro.まぁこれなら直ったといっていいかな。いやぁ、長かったです。

さて、ここからはシェルの仕上げ。楽しい時間が始まります。










紫の彗星で仕上げてみました。自分用なので、実験的に新しいデザインで・・・


苦しめられたBAドライバもばっちり見えます。

まとめですが、このJH13pro、前のオーナーさんが落下かさせたかなんかで出音がおかしくなったんじゃないでしょうか。落下の際、ドライバの配線が切れたのかもしれません。あと、フィルタの劣化もあったので、経年劣化も否定できません。

結局、右chは二つのBAドライバがおかしかったわけです。中古品のリスクが詰まった物でしたねw
私のようなトラブルを楽しめるおかしな人の手に渡ったのが幸いでした。

ということで、中古品はトラブル楽しめる人向けだよ!という強引な結びで本稿を終えましょう。お付き合いありがとうございました。よいGWを!


【速報】 リペアから1ヶ月。またマッチングが崩れてきた。中古リペアに終わりは無い模様・・・