2015年5月10日日曜日

『SE530-KAI』、『TF10-KAI』・『問屋DD-KAI』セルフレビュー ~私のIEM体験の原点。~

今年もやってきました春のヘッドホン祭2015.
くみたてLabも参加しますよ!今年もよろしくお願いします。

さて、「一番フラットなのはどの機種?」「低域が強いのはどれ?」「モニタ寄りの音ってあるの?」
と弊社の製品についてお問い合わせをいただく機会が増えてきました。
そこで、ヘッドホン祭当日まで、くみたてLabの二年間で製作を続けてきた機種を振り返る、
セルフレビューを上げて行きたいと思います!


第4弾は『SE530-KAI』・『TF10-KAI』そして『問屋DD-KAI』です。

【お客様によるレビューはこちらです。】
『SE530-KAI No.1』『SE530-KAI No.2』『SE530-KAI No.3』『SE530-KAI No.4l
『TF10-KAI No.1』『TF10-KAI No.2』『TF10-KAI No.3』
『問屋-KAI No.1』『問屋DD-KAI No.2』『問屋DD-KAI No.3』 『問屋DD-KAI No.4』


くみたてLabでは、オリジナルのIEMに加え、既存のIEMからもカスタムIEMを作れます。
それが「チューニングサービス」で、ShureのSE530とUltimate EarsのTF10がチューニング可能です。また、かつては上海問屋で販売していた「DN-80499」を使った「問屋DD-KAI」なるハイブリッド機もありました。

現在でも続いているチューニングサービスはTF10-KAIとSE530-KAIですが、なぜこの2つなのかというと、私がIEMに興味を持つことになったきっかけがこの2機種だったからです。思い入れのあるこの2機種を、「こうだったらいいのになぁ」とあれこれ考えてチューニングしました。

私のIEM遍歴ですが、2008年に¥32800でTF10を買ったのがその始まりだったきがします。、「こんな凄い音を出すイヤホンがあるのか!」「高級なイヤホンの事をIEMというのか(違います)」と新しい世界が開けた事を今でも覚えています。程なくしてリケーブルというものを知り、オーグラインでケーブルをつくったのがDIY道への入り口ですね。半田ごてをはじめて握り、生意気にも銀入り半田をいきなり使ったものだから半田付けがうまくいかないこと・・・

ケーブル周りでいろいろいじっていたら、やがてカスタムIEMなる存在をしり、最終的にはUnique Melodyでリシェルに出すことになりました。私のカスタムIEMの入り口もこの機種だったのです。

さて、そんなことはさておき、 まず僕の原点といってもいいTF10を使った
TF10-KAIからレビューしましょう。


TF10-KAI
・4Driver3Way

TF10の特徴といったら、なんといっても弾むような低域とキラキラした質感の高域にあるでしょう。
また、音場も独特で、IEMとしてはびっくりの広さを持ちます。
「低域が強すぎてボワボワだよ」といった批判はありましたが、それを含めてTF10なのです。
コレだけ色がはっきりした製品ってないんじゃないかなとも思います。

ところがこのTF10、音の好みという以外に、ちょっとした問題がありました。
ネットワーク部に20Ωの抵抗が挟まっており、出力インピーダンスの高い再生機器を使うとかなり音が変わってきちゃうのです。今でこそポータブルプレイヤーは出力インピーダンスがほぼ0~数Ωの物が増えましたが、一昔前は数十Ωあるものもあり、これがネットワーク部の抵抗と合わさるとかなり大きな値の抵抗がBAドライバに直結されてることになります。

実はTF10内部のこの抵抗、コンデンサと合わせてローパスフィルタを構成しています。
ウーファーにローパスを当てて、ハイカットをしているのですが、抵抗が大きな値になると
減衰が始まる帯域がより低域よりにシフトするので、出音がガラッと変わる可能性があります。

TF10-KAIでは、まずこの問題を解決しようと設計を始めました。「KL-アカラ」の開発で
物理的なローパスフィルタの設計に成功していたので、抵抗とコンデンサによるローパスの
変わりに物理ローパスを使うことで、ネットワーク部から抵抗を取り除くことに成功しました。
これで、再生機器のインピーダンスを気にせずに使えるということです。

あとは、中域のへっこみをドライバを追加することで多少持ち上げています。これはTF10の独特な音場表現を薄めるので、好みによりますが・・・

とにかく、私のいろんな思い出が詰まったチューニングモデルが、このTF10-KAIです。

さて、話は少し戻ってTF10のリシェル・カスタムIEMを手に入れた頃。しばらくTF10で満足していたのですが、ふとした拍子にSE530という機種の存在をしりました。低域強めのTF10とは違い、どの帯域もバランスよく鳴らしつつ、程よく低域のスパイスが効いたこの機種に、すぐさま心を奪われてしまいました。イヤホンスパイラルの始まりですね。


SE530-KAI 
・6Driver2Way
・SE535、SE535-LTDからも製作可能。

気づいたらこちらも3台くらい手に入れて、こちらもUnique Melody でリシェルしてました。とにかく聴き疲れしなく、どんなジャンルもバランスよく鳴らすんですよね。

ところが、だんだん「やっぱり高域と低域がもっと欲しいな・・・」と思うようになってきました。リシェルされたSE530を観察して、「カスタムIEMってどうなってるんだろうなぁ」と考えてました。使っているうちに、2ピンがソケット内で折れる事故が発生し、そこからカスタムIEMの自作がスタートするわけです・・・。

どうにも話がそれて申し訳ありません(笑、そんなわけで、このSE530-KAIは元のSE530に
ツイーターとウーファーを足して、高域と低域を持ち上げることをチューニングの主眼にしています。また、もともとSE530についているツイーターを取り除き、歪の少ないBAドライバに交換することで、高域の質感の向上を狙っています。

設計に半年ほどかかりましたが、出音を聞いて満足しました。メリハリがきいて、聴いていて楽しい!しかしあれ、これってもしかしてTF10の音に近づいている・・・?
SE530をずっと聞いているうちに、無意識にTF10の音を欲していたのかもしれません(笑

またまた話は戻って、私が自作IEMを始めてしばらくしたころ。「1000円くらいのイヤホンがすごいいい音がする」という真偽不明の情報が出回ってきました。それが、上海問屋で販売されてた「DN-80499」こと「問屋DD」でした。 


問屋DD-KAI
・3BA+2DD Hybrid

問屋DDを初めて聴いたときは驚きましたね。「1000円そこそこのイヤホンでこんなにいい音がするのか・・・」と。同時に「1000円なら気兼ねなくパーツ取りできる!」と早速DIYの材料になりました(笑

問屋DD、低域の量感はすばらしいのですが、中高域の主張はそれなりで、特に8kHz以降は余り得意じゃないようです。ならば、ここの帯域をBAに担当させて、ハイブリッドとしたらどうか、と思いつきました。

ハイブリットのIEMとしてUlitamate Earsの 5EBという伝説?の機種があり、とにかく強烈な低域とその背後で遠慮がちになる中高域というその音が、ハイブリッドIEMの音のイメージを作りだしている状況が当時はありました。 ダイナミックドライバでしか出せない低域は魅力的なんですが、
いかんせん1kHz~2kHzあたりまでその音が主張してくると、全体的にマスクのかかった音像になってしまうと常々考えていました。  ShureのSE115とE4cで作った自作ハイブリッドIEMがあったのですが、そのハイブリッドもそんな感じの音でした。
  
そんなハイブリッドのイメージを変えるべく、ダイナミックはあくまでサブウーファー的に300Hzくらいまで鳴らせばいいかなと設計したのが問屋DD-KAIです。
音導チューブを取り付ける樹脂パーツにダイナミックドライバを貼り付け、前面の容積をほぼ0にすることで300Hz以下の帯域を綺麗に取り出せました。
音はダイナミックらしい量感のある低域を持ったドンシャリ。ただ、環境によって聴こえ方が違うのがこの問屋DDのミソで、室内などの静かな環境では鼓膜を揺さぶるようなノリのいい低域主体の音を、屋外などの騒がしい環境では、全帯域でバランスのよい音になるように狙っています。
展示会での評判は上々で、「面白いIEMだ」「すごく自然な聴こえをする」といった評価を多くいただきました。
2013年の暮れから、ひっそりと販売を開始しましたが・・・

  

この問屋DD-KAI、マニアックな人気を生み一時は1番の売れ筋になりました。去年の11月から12月はほとんど問屋DDを作ってたんじゃないかな・・・(苦笑
ただ、原材料となるDN-80499のマッチングが突然悪くなる時期があり、部品としての質が確保できなくなってきたので、泣く泣くディスコンに。

 

やはり、ダイナミックドライバが二発も詰まっているという遊び心をくすぐる構成、色物と思いきやまともな出音。この摩訶不思議なIEMですが、復活を望む声も多数いただきました。





 よし、ではこういう形で復活させましょう!


次回は、この新作のセルフレビューをします。こちらもよろしくお願いします!